2025年9月1日更新
不調になりやすい女性のからだ
だからこそ、がまんせず きちんと向き合って
丸の内の森レディースクリニック 院長
産婦人科女医 医学博士・性科学者
宋 美玄(そん みひょん)先生
「最近、からだの調子が悪い」「いまいち気持ちが不安定」――そうした症状は、女性特有の健康リスクからくる不調かもしれません。 今回は、産婦人科医の宋美玄先生に、女性のからだに起こりやすいトラブルとその対処法について伺いました。
本記事は2025年6月に取材・インタビューした内容をもとに構成しています。
女性は様々な不調を抱えることが多く、その多くが見逃されやすいと感じます。
まさしくその通りで、女性の心身は常に妊娠・出産に備えた準備をしており、複雑なホルモンバランスの上に成り立っています。 妊娠、出産、授乳、更年期など、さまざまなライフイベントがあり、ホルモンバランスが崩れることによって起こる女性特有の病気がたくさんあるんです。 それなのに、多くの女性は家事や育児、仕事と忙しく、不調をがまんしてしまうことも多く、周囲から「そんなもんだよ」と軽く見られてしまう傾向があります。
妊娠に備えて、女性のからだはどんな変化が起こるのですか?
妊娠を望むかどうかにかかわらず、女性のからだは月経という形で妊娠の準備を繰り返します。
そのたびに、月経痛、過多月経、PMS(月経前症候群)などの症状に悩まされる方も少なくありません。
そして妊娠したとすれば、妊娠・出産・授乳という激しい心身の変化にさらされます。
妊娠しなければ、精神的にも肉体的にも大きな負担を伴う不妊治療にチャレンジすることになるかもしれません。
そして、子育てがひと段落したあとは更年期がきますね。
はい、50歳前後になると、個人差はあれ、イライラがおこったり、からだがほてったりする(ホットフラッシュ)など、更年期特有の不調が現れてきます。 あなたが女性なら、どんな人生を選ぶとしても、普通に生きているだけで男性より健康リスクが多く、ハンデを背負っているともいえるのです。 それが仕事や家庭内でのジェンダーギャップ(男女の違いによる格差)などにつながっていきます。 これは経済的にみても、社会的にみてもとても大きな損失です。
こうしたトラブルに対して、女性自身ができることはありますか?
まずは、婦人科に相談してみてください。 私たち婦人科医は、女性のからだの悩みを少しでも軽くするための方法を、日々一緒に考えている、あなたの味方なんです。 もし自分1人で苦痛を抱え込んでいるなら、婦人科を受診することでその苦痛はスッと軽減できるかもしれません。 まずは産婦人科をかかりつけ医として、気軽に相談してください!
女性の多くは産婦人科をあまり活用できていないようですね。
実際、定期的に産婦人科を受診している人は、全体の約3割にとどまっているという統計結果もあります。 自分のからだの不調に慣れてしまっていて、つらさを感じても「こんなものだ」とがまんしたり、諦めてしまっている女性も多いのです。 日々の診療の現場でも、症状が悪化してかなりつらい状態で来院する女性は少なくありません。 「こんな状態になるまでがまんせずに、もっと早く来てくれればよかったのに」と思わず絶句することもあります。
月経に関するトラブルには、どんな治療法がありますか?
たとえば、今すぐは妊娠を考えていない女性が、月経に伴う症状に悩まされているなら、低用量ピルは代表的な治療法です。 過多月経や月経痛を軽くするだけでなく、子宮内膜症の予防・治療、さらには卵巣がんや子宮体がんのリスクを減らす効果もあります。 婦人科では、ライフスタイルに合わせた治療の選択肢を一緒に探していくことができます。
家事や仕事に忙しい女性に伝えたいことはありますか?
多くの女性は「自分のことに時間を割けない」と思いがちです。しかし、もし病気になって入院や手術が必要になったら、もっと大きな時間とエネルギーが必要になります。 自分のことはもちろん、周囲の人のためにも、まずはいったん立ち止まって、自分のからだをきちんとメンテナンスしてください! そして、上司や同僚、部下、配偶者やお子さんなどの周囲の人も、女性が受診をためらわないよう、ぜひ背中を押してあげてほしいです。
女性はメタボ健診(特定健康診査)やがん検診をあまり受けていません。
たとえば、子宮頸がん検診は20歳以上を対象に2年に1回の受診がすすめられています。しかし、実際の受診率は43.6%(2022年国民基礎調査より)と、半数にも届いていないのです。 今、日本では毎年約1万人が子宮頸がんを発症し、約3,000人が亡くなっています(国立がん研究センターの資料より)。20代後半から30代後半の妊娠・出産年齢に多いため、欧米では「マザーキラー」とも呼ばれているんですよ。
検診で早期に発見できれば、完治も可能なんですね。
定期的に子宮頸がん検診を受ければ、早期発見はもちろんのこと、がんになる手前の前がん病変から発見でき、その後に妊娠することもできます。 また、更年期になると、「月経不順は仕方ない」という思い込みから、その年代からふえる子宮体がんを見逃すケースもあります。長くつづく出血は、ほかの病気の可能性も考えて、早めの受診を検討してください。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
私が一番伝えたいのは、「自分の不調を放っておかないこと」です。 自分らしく、生き生きとした毎日を過ごすためには、自分のからだときちんと向き合い、必要なケアを受けることが大切です。 それが、あなた本来のパフォーマンスを発揮し、豊かな人生を送るための第一歩になるはずです!
30代で子宮頸がんと子宮体がんの2つのがんを経験した女優の原千晶さん。現在は自身の経験をもとに、がん検診の啓発活動や患者会の運営などに積極的に取り組んでいます。最初のがん宣告から20年。闘病を振り返り、今改めて思うこと、現在の様子を前後編でお届けします。
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