あなたの疑問に答えます

お悩み解決ライブラリー

本企画は、読者の皆さんからお寄せいただいたリアルなお悩みや疑問をもとに、その分野の専門家に取材するコーナーです。

お悩み

「気持ちに余裕がなく、毎日イライラします」/前編

イラスト:タテノカズヒロ

体の不調、心の疲れ、食事や栄養の悩みなど、健康に関する気がかりは人それぞれです。本企画では、読者の皆さんから寄せられたお悩みをもとに、各分野の専門家が日常生活に役立つ考え方や対処法をわかりやすく解説します。

今回は、睡眠医学・精神医学を専門に、ストレス対処やメンタルヘルスについて研究・診療・発信を行う精神科医の西多昌規先生に、「気持ちに余裕がなく、毎日イライラする」人が少しでもラクになるための方法を伺いました。前編では「感情が高ぶりやすくなる背景」を、後編では「日常の中で心に余白を取り戻すための工夫」についてご紹介します。

今回の専門家

西多昌規先生

西多昌規 (にしだ・まさき)

早稲田大学スポーツ科学学術院教授、早稲田大学睡眠研究所所長。精神科医。専門は睡眠医学、精神医学、身体運動とメンタルヘルス。睡眠、休養、ストレス対処、アスリートのメンタルケアなどをテーマに研究・診療・発信を行う。著書に『休む技術』『眠っている間に体の中で何が起こっているのか』など。

読者からのお便り

最近、これといった理由もないのに、毎日のようにイライラしてしまいます。仕事中も気持ちに余裕がなく、集中できなかったり、ちょっとしたことで気が散ったりすることもあります。どうすれば、もう少し気持ちをラクにできるのでしょうか。忙しいときでもできる対処法があれば教えてほしいです。

(40代・女性)

※読者アンケートに寄せられた声をもとに、編集部で再構成しています。

編集部

ご相談ありがとうございます! 今回届いたのは、「気持ちに余裕がなく、毎日イライラします」というお悩みです。私自身も毎日イライラしては自己嫌悪に陥っているので、ぜひお話を伺いたいと思っています。

今朝も瓶の蓋が開かないだけで、猛烈にイラッとしました。子どもが言うことを聞かなかったり、仕事が予定通り進まなかったりすると、自分でも驚くほどイライラして、周りに驚かれることもあるのですが……。これは元々の性格でしょうか? それとも単なる「気分の問題」なのでしょうか。

心と体の緊張状態が続く「過覚醒」とは

西多

イライラするのは、性格や気分の問題もありますが、それだけではありません。心身からの「休ませて! 少し休憩させて!」というサインなのです。

疲れや緊張で脳が警戒モードに入ると、「感情のアクセルはグンと踏み込まれているのに、ブレーキは利きにくい」という状態になります。

そうなると、ちょっとしたことにもイラッとして、怒りが大きくなってしまうのです。

編集部

アクセル全開なのに、ブレーキが利きにくい……。それは危ないですね。確かに自分でも「少し落ち着いて」と思っているのに、止まれない感じがあります。

西多

こうした状態は、「過覚醒」と呼ばれます。体も心も、ずっと緊張が続いている状態なんです。

まずは、今の自分がどれくらい過覚醒に近い状態か、確認してみましょう。

CHECKテスト

あなたの“過覚醒度”をチェック

  • 疲れているのに眠れない
  • ちょっとしたことでイライラする
  • 物音や通知が気になって落ち着かない
  • 集中できず、そわそわする
  • 小さなミスや予定変更が受け入れられない
  • いくら休んでも、心や体がどんよりと重い
  • 「やらなければならないこと」ばかりで、気持ちが休まらない

※当てはまる項目が多いほど、「過覚醒」の状態に近づいている可能性があります。

※このチェックは、医学的な診断を目的としたものではありません。

寝不足と、予定外の出来事が大きな負担に

編集部

先生、私、チェックテストの項目にかなり当てはまります。ほぼすべてです。これはもう、よくない状態なのでしょうか……。

西多

「全部当てはまったからすぐに問題がある」ということではありません。ただ、かなり疲れがたまっていて、すでに過覚醒の状態にあると言えそうですね。

編集部

ええっ! どうしたらいいのでしょう。いつからこんなにイライラするようになったのか、自分でもよくわからないのです。

西多

過覚醒の原因としてまず考えられるのは、寝不足です。睡眠が足りないと、感情のブレーキが利きにくくなります。普段なら流せるひと言にカチンとくる。ほんの些細な予定変更が、ものすごく億劫に感じる。そういうときは、たいてい脳が疲れています。

脳が疲れていると、感情をコントロールする力が落ちて、イライラが出やすくなります。「自分の心が狭くなった」のではなく、脳の余力が減っていると考えるとよいでしょう。

もうひとつは、「思い通りにならない」「自分でコントロールできない」状況が続くことです。たとえば、いまの私もそうです。新しく買ったiPhoneにデータがうまく移せなくて、非常にイライラしています(笑)。

編集部

先生でもイライラすることがあるんですね! それを聞いて、少し安心しました。

西多

もちろんありますよ(笑)。iPhoneの件にしても、一見すると大きなストレスには見えませんよね。しかしこういう「進まない」「原因がわからない」状況は、脳にじわじわと負荷をかけます。

普段から寝不足や疲れが溜まっているところに、こうした小さなストレスが重なると、イライラが心の堤防を越えてしまうのです。また、やり残したことや未処理のタスクが多い状態が続くと、頭の中でそのことが気になり続け、脳が休まりにくくなります。

頭の中が「開きっぱなし」になっていませんか?

編集部

仕事のメール、家の用事、スマホの通知、やりかけのタスク……。考えてみれば、平日も休日も、頭の中がずっと忙しい感じがあります。確かに「あれもこれも終わっていない」と常に思っていますね。こうした状態が、イライラにつながるのでしょうか。

西多

そうです。イライラにつながります。いまは、ひとつのことに集中していても、すぐ別の用事が割り込んできますよね。スマートフォンで調べものをしていたはずが、通知を見てメッセージを返し、ついでにニュースを読み、気になる広告やSNSまで開いてしまう。

編集部

はい、よくあります。仕事に関するニュースを読んでおこうと思ってスマホを開いたのに、まず芸能ニュースが目に入る。読んでいる間に「そういえば今日は友人の誕生日だった」と思い出してLINEを送る。

今度こそ調べようと思ったら、さっき見た芸能ニュースのアイドルが気になってYouTubeを見始めてしまう。さらに、途中で出てきた広告の化粧品が気になって、気づけば購入画面まで進んでいる……という、あれですね。

西多

まさにそれです(笑)。スマートフォンは非常に便利ですが、ひとつのことを調べるつもりでも、通知、ニュース、SNS、動画など、次々と別の情報が入ってきます。すると、頭の中には未処理の情報や、やりかけの用事がどんどん増えていきますね。

こうなると、脳はなかなか休まりません。スマホやパソコンで常にいろいろな人とつながっているため、オンとオフの切れ目もつきにくくなります。返していないメール、確認していない資料、やりかけの家事、あとで調べようと思ったこと。そうした「まだ終わっていないもの」が、頭の中に残り続けるのです。

この状態は、デスクトップにファイルが山ほど開いているようなものです。どれが必要なファイルかわからない。それなのに通知だけが鳴る。これは、かなり疲れますし、イライラもしやすくなります。

編集部

それは確かにイライラしますね。しかも、自分であれこれファイルを開いているのに、「誰がこんなに開いたの!?」と思うんです(笑)。

西多

その犯人はだいたい自分です。しかし、自分を責める必要はありません。まずは、頭の中に置いたままになっているものを、少し外に出してみましょう。

「あれもやらなきゃ」「これも忘れないようにしなきゃ」と、すべてを頭の中だけで管理しようとすると、それだけでワーキングメモリがいっぱいになってしまいます。そんなときは、リマインダー機能やメモ書きを使って、いったん頭の外に出しておくことが大切です。いわば、外付けのハードディスクに預けるようなイメージです。

「覚えておく」のではなく、「思い出せる場所に置いておく」。それだけでも、頭の中の負担を少し軽くすることにつながります。

前編のまとめ

前編では、心と体が警戒モードになり、感情のブレーキが利きにくくなる背景を伺いました。後編では、頭の中に抱え込んだものを整理し、心に余白を取り戻すための具体的な方法を紹介します。

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